2021年4月1日、東京都板橋区に「おうちにかえろう。病院」というちょっと変わった名前の病院が開院しました。病気や怪我を治療する病院から転院してきた患者を受け入れ、在宅復帰を目指して治療、看護、リハビリを行う病院です。
病床の数は120。自宅や介護施設に戻ることのできる在宅復帰率90%以上を目標に掲げ、開院初年の2021年度に93%を達成しています。
在宅医療のプロが作った病院
「おうちにかえろう病院」を作ったのは、10年以上にわたって自宅で生活する患者とその家族を支えてきた「やまと診療所」です。
やまと診療所は年間500人以上の患者を自宅で看取ってきた在宅医療のプロフェッショナルチームです。
そんな在宅医療専門の診療所が病院を建てるのは全国的にも極めて稀なことです。
やまと診療所では、病状の変化で入院が必要となった患者が、そのまま自宅に帰ることができなくなるケースを多く見てきたと言います。
もちろん、病状によっては退院が難しいケースもありますが、中には、在宅診療を専門とするやまと診療所からすると、退院して自宅で過ごすことも可能なのではないかと思えるケースもあります。
しかし、医療者側に在宅診療の知識が乏しいため、はじめから在宅復帰を提案されず、家に帰ることを諦めてしまうことがあるそうです。
それならば、家で何ができて何ができないのかをわかっている自分たちが、自宅に帰るための病院を作ろう。
そんな思いのもとに作られたのが「おうちにかえろう病院」です。
在宅復帰率93%
患者を自宅など元の生活の場に戻すことを目的とした病院は「地域包括ケア病棟」と呼ばれます。国は地域包括ケア病棟の在宅復帰率を72.5%以上と定めています。
「おうちにかえろう病院」は在宅復帰率90%以上を目標に掲げ、開院初年の2021年度に93%を達成しました。
高い在宅復帰率を実現できるのには、いくつかの理由があります。
カフェに隣接したリハビリスペース
「おうちにかえろう病院」で最も特徴的なのがリハビリスペースです。
1Fのロビーから奥に進んむとオープンなカフェがあり、リハビリスペースはこのカフェに隣接しています。
カフェは一般にも開放されており、リハビリスペースとの間に壁はありません。
人は誰かに見られているといつもより頑張ろうとする心理が働きます。あえて人目につく場所にすることで、患者が自然と「頑張れる」空間になっています。
さらに、人目につくリハビリスペースに出かけるために身だしなみを整えたり、リハビリ後にカフェで飲み物を注文してお金を支払ったり、こういった1つ1つの行動が患者にとっては大切なリハビリになります。
病棟内もできるだけ仕切りを少なくし、開放的で明るく、暖かみのある作りになっています。
病院全体が在宅復帰に向けた訓練ができ、「おうちにかえろう。」という気持ちになれる空間として設計されています。
家が見えている医療者だからこそできること
「おうちにかえろう病院」は地域で在宅医療を提供する「やまと診療所」を運営する法人が作りました。
そのため、自宅でできること、できないこと、どんなサポートが必要なのかといったことを具体的に見据えて在宅復帰に向けた準備を進めることができます。
在宅医療の知識が乏しいと、医療者側が「この状態では家にかえるのは難しい」と在宅復帰を早々に諦めてしまうことがあります。
家が見えている医療者だからこそ、リハビリでできるようになること、家族の協力が得られればできること、外部のサポートを利用すればできることが分かり、そのために必要なことを一つ一つ整えていくことができます。
「おうちにかえろう。病院」は「家にかえりたい」「自宅で最後を迎えたい」そんな患者の思いに応える病院です。