がん細胞は体の中で生物と同じ進化をしていた

2016/07/31の朝日新聞、朝刊の科学の扉のコーナーに、「がん細胞 体内で進化」という記事で、国立がん研究センター研究所のチームが、2010年にイギリスの科学誌ネイチャーに発表した研究成果が紹介されています。

この研究では、がん患者7人の各臓器に含まれる2万個以上の遺伝子を解析して、がん細胞が体内でどのように進化しているかを調査しました。

がんは正常な細胞の遺伝子が変異して異常な細胞となり(発ガン期間)、その異常な細胞が増殖し(成長期間)、やがては体内の他の部位に広がっていきます(転移)。発ガン期間は12年間、成長期間は7年間、転移期間は3年間ほどです。

私達の体内では、日々、細胞が分裂し、増殖しています。遺伝子が正常ならば、増殖する細胞も正常です。しかし、正常な細胞に収まっている遺伝子でも、紫外線やウィルス、タバコ、活性酸素など、日常生活の中で様々な影響を受け、遺伝子に傷がつきます。

傷がついた遺伝子を元に細胞が増殖すると、変異した遺伝子を持つ細胞が生まれます。変異した遺伝子を持って生まれた細胞の多くは、体の免疫機能が働いたり、増殖ができなかったりして、やがて死滅していきます。しかし、変異した遺伝子を持つ細胞の中で、いくつかの細胞は生き残り、増殖を繰り返していきます。

この、変異した遺伝子を持ちながら、体内で生き残り、増殖を繰り返した細胞が、がん細胞なのです。がん細胞は、正常な細胞よりも増殖のスピードが速く、どんどん増えていき、正常な細胞を追いやっていきます。

人体は正常な細胞が無いと、上手く機能することができません。がん細胞が増殖することで、人体の機能が失われていくというのが、がんという病気です。

私達の体の中では、日々、異常な細胞が生まれています。イギリスのウエルカムトラスト・サンガー研究所のチームは、55歳から77歳の健康な4人のまぶたの上の皮膚を解析しました。すると、1平方cmあたり100個以上もの変異細胞が見つかりました。

このことから、正常な皮膚の細胞の4分の1以上に、何らかの突然変異があると考えられています。

日々生まれてくる膨大な数の突然変異の中から、淘汰され、生き残った細胞ががん細胞になります。

この過程は、生物の進化とそっくりです。

がん細胞の種類は1種類ではありません。例えば、すい臓にあるがん細胞も、複数の種類の遺伝子を持つ多様な細胞の集団となっています。

すい臓がんは、通常、腹膜、肝臓、脳の順序で転移していきます。ある患者の遺伝子変異の種類を調べると、ちょうどこれと同じ順序で遺伝子変異をした細胞の種類が増えていきます。

がん細胞の種類が1種類であれば、異なる臓器に転移する可能性はとても低くなります。環境が変わるため、細胞が生き残れないのです。しかし、実際には多用な種類の異常細胞があるため、異なる環境では、元の環境とは異なる異常細胞が生き残り、転移していくのです。

抗がん剤で一時的にがんが治っても、再発するのも同じ理由です。

抗がん剤が効くと、異常細胞が死滅し、がんは縮小します。しかし、がん細胞は多用なため、一部の異常細胞は抗癌剤が効かずに生き残ります。時間が経つと生き残った細胞が増殖し、また、がんが再発するのです。