スイッチ! ──「変われない」を変える方法

スイッチ! ──「変われない」を変える方法

スイッチ! ──「変われない」を変える方法』を読みました。

アイデアのちから」の著者チップ・ハース、ダン・ハースによる、書籍、第2段です。

会社の仕組み、自分の習慣、恋人との関係、子どもの教育まで、「変われない」を変えるためのアイディアと知恵に溢れた一冊です。

「変われない」理由には、大きく2種類あります。

「象使い」と「像」の問題です。

「象使い」の問題とは、なぜ変わらなければいけないのか、どのように変わらなければいけないのかを理解していない、ということです。

多くのケースでは、「象使い」の問題は解決済みです。

人は、なぜ変わらなければいけないのか、どのように変わらなければいけないのかを頭では分かっています。

問題は、「像」の方です。

「象使い」が変わらなければいけない理由や方向性が分かっていても、「像」は必ずしも言うことを聞いてはくれません。

ダイエットをしようと思い、「象使い」が「間食はしない!」と決めたとします。肥満は健康や美容に悪いことは明らかですし、間食をしないことで摂取カロリーを減らせば体重が減ることも明らかです。小学生でもわかる、簡単な話です。

しばらくは「像」は言うことを聞いて、おやつや夜食を我慢します。でも、ある時、像は我慢ができずに、おやつに手を伸ばしてしまいます。誰にでも分かる、明確で簡単な理由と方法があったのに、多くの人はなぜかダイエットに失敗してしまいます。

健康的な生活のために早起きをしようと「象使い」が決意します。翌朝、目覚まし時計で目を覚まし、頭では起きなければと分かっていても、「像」はもう少しだけと布団から出てきません。早起きを習慣にする、なんてとても簡単そうです。ですが、多くの人は人生で何度挑戦をしても、なかなかうまく行きません。

「変われない」原因の多くは、「象使い」ではなく、「像」の問題なのです。

ビジネスの世界でも同じです。

コストカットの重要性を否定する人はいません。業務効率化の大切さを理解できない人はいません。

しかし、どんなに綺麗な資料を用意して、理論的なプレゼンテーションを行っても、組織は中々変わりません。

みんな、頭(象使い)では理解しているのです。

問題は、心(像)が行動しようとないためです。

本書では、「像」が行動するコツをビジネスから日々の生活習慣まで、具体的な事例を豊富に交えながら紹介しています。

まずは、「象使い」が目的地と道を理解することが大切です。

「象使い」は分析が大好きで、「なぜできないのか」を分析しようとします。もちろん、その分析結果は正しいです。でも、それは「真実だが役に立たない(True But Useless)」ものであることがほとんどです。頭の良い象使いほど、分析麻痺の状態に陥ってしまいます。

大切なのは、ダメな点を探すのではなく、「ブライト・スポット」を見つけることです。

「ブライト・スポット」とは、うまくいっているケース、成功事例です。

会社全体として残業を減らしたいと考えても、なかなか残業が減らないことはよくあります。このような場合、残業している(失敗している)人の意見を聞いたり、仕事内容を分析しても、それは「真実だが役に立たない(True But Useless)」でしかありません。

必要なのは、残業せずに定時に帰っている人たちを見つけ、なぜ彼らは定時に帰ることができるのか、そのポイントを見つけ出すことです。

会社の全員が遅くまで残業をしているなら、同じ業務を行っている他社で残業が少ない会社の社員について分析をして、「ブライト・スポット」を見つけるべきです。

「ブライト・スポット」を見つけたら、あとは「像」の問題です。

「像」は理論的に説明しても、あまり聞いてくれません。

なぜなら、「像」は感情の問題だからです。

「感情」に訴えかけることで、はじめて像は行動を起こします。

ある企業の担当者は、コストカットのために、各地にある工場で使用する作業用手袋の仕入れを統一しようと考えました。それまでは、作業用手袋の仕入れは工場ごとに行っており、製品も価格もバラバラでした。ある工場では他の工場の数倍の値段で全く同じ手袋を購入しているようなケースもありました。

コストカットの必要性は誰の目に見ても明らかです。ですが、この担当者は、コストカットの必要性を綺麗な表とグラフでプレゼンテーション資料にまとめる、というようなことはしませんでした。恐らく、プレゼンテーション資料にまとめて会議に提出しても、「確かに、コストカットは必要だ。では、次回の会議で続きを話そう…」となってしまい、いつまで経っても像が行動を始めないからです。

プレゼンテーション資料を作成する代わりに、この担当者は各地にある工場から実際に使っている手袋を集め、それぞれの手袋に値札をつけて、会議室の机の上にぶち撒けました。会議室には大量の手袋があふれました。

会議室を訪れた人々は、うちの会社は、こんなにたくさんの手袋を使っていたのかと呆れ果てます。自分の工場の手袋に、同じような手袋の数倍の値札がついているのを見つける人もいます。

この担当者は、手袋の納入改革を行う権限を与えられ、会社全体のコストカットに成功します。

手袋のコストカットが必要な理由や方法は、誰の目から見ても明らかでした。ですが、この担当者は綺麗なプレゼンテーション資料で「象使い」に訴えようとしたのではなく、大量の手袋を見せつけることで、「像」に訴えかけました。

実際に行動を起こすのは「象使い」ではなく、「像」です。

本書では、「像」に行動させ、それを継続させるコツが豊富な事例とともに解説されています。

大きな社会問題から、会社の仕事、生活の習慣、家族関係まで、何かを「変えたい」と思っている人におすすめの一冊です。