夢枕獏の『陰陽師』を読みました。
平安時代、闇が闇として残り、人も、鬼も、もののけも、同じ都の暗がりの中に、時には同じ屋根の下に、息をひそめて一緒に住んでいた。安倍晴明は従四位下、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。死霊や生霊、鬼などの妖かしものを相手に、親友の源博雅と力を合わせこの世ならぬ不可思議な難事件にいどみ、あざやかに解決する。
名づけられないものは存在しない
この世に名づけられぬものがあるとすれば、それはなにものでもないということだ。存在しないと言ってもよかろうな。(p.31)
人は、あらゆる者、事に名前をつけてきました。
同じ蝶でも、アゲハチョウとモンシロチョウは、名前が違います。名前が違うから、人はこの2つを区別することができるのです。
アゲハチョウやモンシロチョウという分類名を知らなければ、蝶はすべて蝶なのです。
人は、ペットにも名前をつけます。名前をつけることで、犬や猫が、かけがえのない存在になるのです。
人が闇や霊的なものに恐怖を感じるのは、そこに名前がないからです。
人はたやすく縛られる
同じ銭という呪で縛ろうとしても、縛られる者と、縛られぬ者がいる。銭では縛られぬ者も、恋という呪でたやすく縛られてしまう場合もある。(p.128)
よく、「金に狂う」とか、「恋に狂う」という表現をしますが、狂うまではいかなくても、人は、金や恋に簡単に縛られてしまいます。
金や恋に縛られていない人でも、時間やプライド、健康、会社や家庭など、人は必ず何かしらに縛られています。
たったひとつのものでも強く縛られていたり、たくさんのものに少しずつ縛られていたり。
できるだけ、縛られず、自由に生きていきたいです。
汚れるも汚れぬも、人の定めたこと。
気にすることはない。汚れるも汚れぬも、人の定めたことでな。おれには関係のないことだ。(p.312)
汚れているかどうか、悪い人かどうか、罪があるかどうか、ダメな人かどうか、社会が定めてこと。自分がその人をどう見るかは全く別の問題。