賽銭用コインをキャッシュレスで販売 万松寺

万松寺

名古屋市にある480年の歴史を持つお寺、亀岳林 万松寺では、賽銭用コインを自動販売機のキャッシュレス決済で販売しています。

タッチ決済によるキャッシュレス販売のみに対応していて、コインの価格は1枚500円です。1枚~10枚入りまでのパッケージがあります。

コインはお賽銭として使ったり、施設内通貨として使ったり、記念に持ち帰ることもできます。

祈願成就のお礼として金銭を奉納するお賽銭は、多くの日本人が慣れ親しんでいる大切な宗教文化であり、寺社の維持・運営のための重要な財源でもあります。

一方、近年は、キャッシュレス決済の普及により、現金を持ち歩かない人が少しずつ増えています。今後、キャッシュレス決済がさらに拡大すれば、現金を用いたお賽銭という行為が大きく減少することが予想されます。

さらに別の問題も浮上しています。2019年以降、金融機関では大量の硬貨による入金に対して、人件費削減などの観点から手数料を設定するようになりました。例えば、三菱UFJ銀行では、硬貨1,001枚以上で1,650円、以降、500枚毎に550円の手数料がかかります。

賽銭は5円や10円など比較的小額の硬貨が多いため、入金手数料が大きな負担となり、多くの寺社にとって死活問題になっています。

これらの問題を解決するため、一部の寺社では、賽銭箱の横にキャッシュレス決済用の端末を置き、任意の金額をキャッシュレス決済してもらうことで、現金でのお賽銭の代わりにしてもらうという試みが行われています。

しかし、お賽銭は、硬貨を賽銭箱に投げ入れてから拝礼をするまで、一連の動作がセットになって参拝という行為として認識されているため、キャッシュレスでお賽銭を入れてから拝礼するという手順には、少し違和感を感じてしまいます。

その点、万松寺が導入した賽銭用コインは、あらかじめキャッシュレスでコインを購入することで、参拝の際にはコインをお賽銭として投げ入れてから拝礼を行うことができ、これまでの習慣を大きく変える必要がありません。

お賽銭という一種の伝統文化を守っていくためにも有効な試みだと思います。

1枚500円という単価は少し高価に感じますが、万松寺は知名度のある大きな寺社なので、観光をかねて訪れる人も多く、許容範囲内の価格設定でしょう。2枚購入して1枚は記念品として持ち帰るという人も多いのではないでしょうか。

寺社によっては1枚あたりの単価を安く設定したり、賽銭用と記念用の2枚を硬貨の種類を変えてセット販売したりと、色々と工夫ができそうです。

今後、導入する寺社が増えれば、御朱印集めと同じように、賽銭用コイン集めが流行するなんてこともあるかもしれません。

寺社は長い歴史の中で時代時代に合わせて少しずつそのあり方を変えてきました。ときには時代の最先端を行くような試みも行われてきました。江戸時代に流行したお伊勢参りなどは、伊勢神宮が仕掛けた日本初の全国的な観光キャンペーンと言えるでしょう。

お賽銭もその起源を辿れば、古くはお米などの作物を神仏に供えていたことがはじまりです。貨幣の普及とともに中世以降に金銭を供えるようになり、賽銭箱が広がったのは近世以降とのことです。

キャッシュレス決済の普及という新しい時代の変化の中で、寺社も様々な試みを行い、お賽銭もそのあり方を変えていくでしょう。

賽銭用コインのメリット

  • 現金を持ち歩かない人にキャッシュレスでコインを購入してもらうことで、寺社の維持・運営のための財源が確保できる
  • 参拝者はコインをお賽銭として入れることで、これまでの参拝習慣を継続できる
  • 賽銭用コインは施設内通貨や記念品としての利用もできる

賽銭用コインのデメリット

  • 現在はメディアで取り上げられたことにより利用者が増えているが、メディア熱が冷めた後も継続して効果があるかは不明
  • 知名度の高い寺社以外では自販機やオリジナルの賽銭コイン導入のためのコストに見合った収入を期待するのは難しそう

参考