愛媛県北東部に位置する今治市は特産品の「今治タオル」が全国的に有名です。この今治タオルを作るときに大量に発生する厄介者が「ホコリ」です。かつては全て廃棄していたホコリですが、あるキャンプ好きの社員のアイデアでカラフルな着火剤「今治のホコリ」に生まれ変わりました。
「今治のホコリ」はキャンプ好きの間で話題になり、2022年度グッドデザイン賞を受賞、注目のヒット商品になりました。
火災の原因にもなる「綿ぼこり」
「今治のホコリ」を生んだのは今治市にある染色メーカーの西染工株式会社です。染色工場では染めた生地を巨大な乾燥機で乾燥させます。その際に発生するのが大量の「綿ぼこり」です。その量は一日に240リットルにもなると言います。
大量のホコリは着火しすく、火災の原因にもなるため、こまめに取り除く必要があります。さらに、処分するのにも費用がかかる、まさに厄介者でした。
キャンプ好き社員のアイデア
工場の片隅にはいつも大量の「綿ぼこり」が置かれていました。
この綿ぼこりを何とか再利用できないか。
キャンプが趣味の社員が一つのアイデアを思いつきます。
それは、火が付きやすいというホコリの特性を活かして、着火剤として活用することでした。
燃えやすくイヤなにおいがしないほこり
商品化にあたり実験を繰り返すうちに、ほこりが着火剤としてとても優れた特性を持っていることが分かりました。
キャンプの火起こしでは、最初の火種作りに燃えやすい着火剤を使います。市販の着火剤の多くは木くずを固め、そこに石油系のパラフィンワックスや灯油などの可燃性物質を染み込ませたものです。
燃えやすさは製品ごとに様々で、着火剤の燃焼が不足していると炭や薪に上手く火が移りません。
また、石油系の着火剤は燃やしたときに石油系特有のにおいが発生します。特に灯油を使用したものはにおいが強く、着火剤が燃え尽きる前に料理を始めてしまうとイヤなにおいが食器や食品に移ってしまう可能性があります。
その点、ほこりは元々燃えやすく、石油などの可燃性物質を染み込ませる必要がありません。そのため、燃やしたときに石油系の着火剤のようなイヤなにおいが発生しません。
さらに、ほこりはほぼ燃え尽きてしまうため、新聞紙を着火剤に使ったときのように燃えカスが舞い上がることがありません。
カラフルな見た目がヒット
着火剤としての実用性が高いほこりですが、元はただの「ほこり」です。実用性が高いだけでは消費者の目には止まりません。
そこで着目したのが染色メーカーならではの「色」です。染色工場で出るほこりには染めたタオルと同じ数の色があります。
赤、青、緑、黄色、オレンジ、ピンクと実に豊富なカラーバリエーションのほこりがあります。
この多様な色を活かすため、透明な容器にほこりを詰めるアイデアが生まれました。
そして、誕生したのがカラフルな着火剤「今治のホコリ」です。
容器に詰める際にはSNS映えするよう、1色ではなく複数の色を組み合わせて、外から見て分かりやすいよう層になるように詰めていきます。
このカラフルな見た目がSNSで話題になります。キャンプブームの後押しもあり、全国から注文が相次ぐ大ヒット商品になりました。
おしゃれな見た目のため、アウトドアショップでの取り扱いも増えているようです。
ちょっとした工夫で「やっかいもの」がヒット商品に
ほこりというやっかいものでしかなかった廃棄物を何かに使えないかという視点から今回のプロジェクトははじまりました。
ほこりを着火剤として使用するというアイデア、そして、そのカラフルな見た目を活かすというちょっとした工夫によって、ほこりという廃棄物がヒット商品に生まれ変わりま
開発当初は「ごみを売るのか」など社内からの反対意見も多く、開発者は説得に苦労されたそうです。
反対意見をなんとか押し切り販売を開始した後も、当初はイベントなどで実際に体験してもらうなど、地道に商品の魅力を伝えていました。そんな中、キャンプ雑誌に取り上げられたことがきっかけでカラフルな見た目がSNSで注目され、キャンプブームに乗って大ヒット商品になります。
さらに、廃棄物である「ほこり」を活用する点がSDGsの観点からも評価され「グッドデザイン賞2022」を受賞しました。
販売開始から1年後には1日に200個を製造するようになり、タオルを乾燥させた際に発生するほこりの廃棄量は70%削減しました。
少し視点を変えるだけで、身近なものがアイデア次第で新たなビジネスチャンスにつながります。